2011年4月30日土曜日

福島県の学校の屋外活動制限:「20ミリシーベルト/年間」を考える(1)


1.確かに徹底的な議論と検証が行われているとは言い難い。

文部科学省などが、福島県の小学校などの校庭での活動を制限する目安を、1年間の放射線量の累積で20ミリシーベルトとしたことなどを批判して、小佐古敏荘氏が内閣官房参与を辞任した。このことが大きな反響を呼んでおり、いったい誰が、どのような根拠でこのような基準を設けたのか、そして、各関連省庁(および外部諮問機関)がどのような討議を行なっていたのかが追求されている。

 このことについて言えば、4月19日付で公表されている文部科学省:福島県内の学校等の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方についてを参照するのがよいだろう。

基本的に、今回の決定にあたっては、まず(1)政府の原子力災害対策本部が基本案を作成し、それを(2)原子力安全委員会が検討した上で、「福島県内の学校等の校舎、校庭等の利用判断における暫定的考え方」に対する助言について以下のように回答している:

平成23年4月19日付で、要請のありました標記の件については、差支えありません。なお、以下の事項にご留意ください。

  • 学校等における継続的なモニタリング等の結果について、二週間に一回以上の頻度を目安として、原子力安全委員会に報告すること
  • 学校等にそれぞれ1台程度ポケット線量計を配布し、生徒の行動を代表するような教職員に着用させ、被ばく状況を確認すること

次いで、(3)文部科学省から福島県教育委員会、福島県知事などの関係者宛に「福島県内の学校の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方について(通知)」が送付されている。


これらの起案、検討、諮問・評価、決定、通知までのプロセスが、全て4月19日付で行われているということに驚かされる。小佐古敏荘氏ならずとも、充分な討議や検証が行われているとはとても思えず、政府と関係諸官庁は国民に対して誠実に説明する義務があることは間違いない。

2.20ミリシーベルトの論拠が希薄であり子供たちの放射線に対する感受性が考慮されていない。

原子力災害対策本部に起案による学校の屋外活動の制限基準である「20ミリシーベルト/年」は、次のような論拠に基づくものと説明されている:

国際放射線防護委員会(ICRP)のPublication109(緊急時被ばくの状況における公衆の防護のための助言)によれば、事故継続等の緊急時の状況における基準である20~100mSv/年を適用する地域と、事故収束後の基準である1~20mSv/年を適用する地域の併存を認めている。ま た、ICRPは、2007年勧告を踏まえ、本年3月21日に改めて「今回のような非常事態が収束した後の一般公衆における参考レベル(※1)とし て、1~20mSv/年の範囲で考えることも可能」とする内容の声明を出している。このようなことから、幼児、児童及び生徒が学校に通える地域においては、非常事態収束後の参考レベルの1-20mSv/ 年を学校の校舎・校庭等の利用判断における暫定的な目安とし、今後できる限り、児童生徒等の受ける線量を減らしていくことが適切であると考えられる。

※1 「参考レベル」: これを上回る線量を受けることは不適切と判断されるが、合理的に達成できる範囲で,線量の低減を図ることとされているレベル。

この「20ミリシーベルト/年」を「是」として上で、1時間当たりの(被ばく)線量を算出すると「約2.283マイクロシーベルト」になるわけだが、ここで、災害対策本部は、屋外と屋内の被ばくを屋外を100とした時に屋内ではその40%にあたると想定し、かつ、幼児、児童及び生徒の1日の生活時間を屋外8時間:屋内16時間という案分を行い、その結果として「3.8マイクロシーベルト/時」という数値を導き出している。

   年間被曝量20ミリシーベルト/年=2.283マイクロシーベルト/
   屋外3.805マイクロシーベルト/時X8時間
   屋内1.524マイクロシーベルト/時X16時間
   ただし、屋内被ばくは屋外活動時の40%として想定する。

学校での生活は校舎・園舎内で過ごす割合が相当を占めるため,学校の校庭・園庭において3.8マイクロシーベルト/時以上を示した場合においても,校舎・園舎内での 活動を中心とする生活を確保することなどにより,児童生徒等の受ける線量が20ミリシーベルト/年を超えることはないと考えられる。...... というのが、とりあえずの結論となっている。

多くの方が猛烈に反駁している通り、ICRPの「Publication 109」および「2007年勧告」を合体させて拡大解釈し、その上で、本来成人に対して用いられるべき基準を、放射線に対する感受性が成人の数倍(年齢によって異なる)である幼児、児童及び生徒に対してそのまま適用するという過ちをおかしていることが問題である。



2011年4月29日金曜日

見出しひとつで記事の印象が全く違ってしまう

「[FT] 今こそ原発を推進しよう(社説)」(日本経済新聞電子版)

4月26日に日本経済新聞電子版に「[FT] 今こそ原発を推進しよう(社説)」という見出しの記事が掲載された。[FT」とは英国の経済系日刊紙「Financial Times」の意味で、日本経済新聞が同社と特約を結んで記事を配信しているものである。以下に無断でその全文を引用させてもらうが、記事内容そのものは、福島第一原子力発電所の事故が世界に与えた影響を述べたものであり、今後とも原子力発電の安全性が担保されねばならないとともに、新たな技術開発が望まれるという文脈になっている。特に気づいた点を言えば、ドイツが緊急で7基の原発を運転停止にしたことに触れて、その行き過ぎた対応に異論を唱えていることが強調されているところだろうか。

ともあれ、beltixが違和感を覚えたのは「[FT] 今こそ原発を推進しよう(社説)」という見出しである。この見出しは、受け取り方によって(現在の日本における厳しい状況を無視して)高らかに原発の推進を叫んでいるよに感じられる。そこで、「Financila Times」の当該記事の原文を比較してみた。そのタイトルは「Time to Revive, Not Kill, the Nuclear Age」となっており、どうしても「今こそ原発を推進しよう」という意訳にはなりようがない。仮にbeltixの拙訳を示せば「原子力時代を終焉させるのではなく、復活させるべき時」となり、与える印象が大きく異なってくる。記事の内容が示しているいくつかのポイントについては、読者側にも様々な意見があるだろうし、そうあってしかるべきだ。しかしながら、記事の全体像を的確に表現すべき見出しが原文と大きく異なる印象を与えているとすれば、やや問題があるように思われる。海外記事の引用、掲載にあたっては慎重な配慮を望みたい。

以下に日本経済新聞の翻訳記事と原文を掲載させていただいた。(著作権上の問題がある場合はご連絡ください)

[FT]今こそ原発を推進しよう(社説)
(2011年4月25日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

原子力業界にとって、今週はまたつらい1週間になる。日本の福島第一原子力発電所からの放射能漏れが続いているうえに、26日はウクライナ のチェルノブイリ原発事故からちょうど25年という節目の日を迎え、原子力に反対する活動家たちに格好のスローガンを与えているからだ。

■原子力のない世界は不安定

例えば先週末には、9人のノーベル平和賞受賞者が原子力発電の段階的な廃止を求める書簡を各国の元首に送付した。世界中の人々が「これまで以上に平和に、そして安全に暮らせる」ようにするためだという。
実際のところ、原子力のない世界は安全性が低くなる。原子力は現在、世界の発電量の14%を占めており、これを化石燃料や再生可能エネル ギーで代替することは当面できない。強行すれば、エネルギー市場が深刻な不安定性や不足に見舞われる恐れがある。要するに、エネルギー安全保障には原子力 を含む多様なエネルギー源が必要なのだ。
こと安全性については、原子力は別の基準で判断することが避けられない。広島への原爆投下で原子力の時代が始まって以来、人々は核分裂の破壊的な威力と、姿も見せず音も立てずに忍び寄ってくる放射能汚染の危険性の両方を懸念してきた。
しかし、原子力の時代が始まってからの原子力エネルギーによる死傷者数(鉱石の採掘や燃料精製の現場での事故から、発電所からの放射能汚染 によるものまでを含めた数)は、石炭や石油、天然ガスの燃焼による犠牲者数よりケタ違いに少ない。炭素燃料がもたらす気候変動という、論争の的になってい る2次的影響を無視した場合でもそうなのだ。

■現実的な安全性評価を

政治家は、原子力に対する国民の不安を尊重しなければならない。チェルノブイリがもたらした長期的な放射性降下物には、恐ろしいものがあ る。現地から2000キロ離れた英国の一部地域では今も、農家が自由にヒツジを移動させられない。そして悲しいかな、福島第一原発の数キロ圏内に住む人々 は、今後何年も普通の生活に戻れないかもしれない。
このため、世界各国の政府が福島の事故に対応して原発増設計画を一時停止し、既存の原子炉の安全性を点検することにしたのは正しかった。た だし、巨大地震と津波という特殊な状況が欧州北部に当てはまる可能性が低いことを考えると、原発7基の一時停止を命じたドイツは行き過ぎだった。
こうした点検は、形ばかりのジェスチャーではなく、福島で起きたことを踏まえて本当に安全性を評価する試みでなければならない。それと同じ くらい重要なのは、点検を不必要に長引かせ、政治家たちがエネルギー政策について難しいが不可欠な判断を下すのを回避させてはならない、ということだ。

■研究を停滞させてはならない

現在の原子力の嘆かわしい特徴は、大半の発電設備が古いことだ。これは1979年のスリーマイル島の事故に続くチェルノブイリの事故で、新 規の承認と建設が何年も凍結されたためだ。世界の原発の大多数は、20世紀半ばの防衛産業で生まれた設計に基づき20年以上前に建設されたものだ。
アレバの欧州加圧水型炉(EPR)やウェスティングハウスの軽水炉AP1000といった現在の「第3世代」の設計は、受動冷却システムなどの安全装置を備えている。こうした装置があれば、津波の後に福島第一原発を破壊した深刻な過熱をほぼ確実に防げたはずだ。
しかしこうした設計は完璧からはほど遠く、将来に向けてより優れた原子炉(例えば、ウラン燃料ではなくトリウム燃料を使う原子炉や、地下深部で稼働する原子炉など)を開発するにはもっと研究が必要だ。
そして言うまでもなく、原子炉の安全性以外にも対処すべき問題がある。特に大事なのは、放射性廃棄物の長期的な貯蔵や処分だ。
チェルノブイリは過去四半世紀にわたって原子力の開発を凍結させた。もし福島が今後25年間にわたって、これと同じくらい効果的に原子力の開発を凍結させるようなら、世界にひどい遺産を残したことになる。
(翻訳協力 JBpress)

Time to revive, not kill, the nuclear age
Financial Times
Published: April 24 2011 19:19 | Last updated: April 24 2011 19:19

This is going to be another bad week for the nuclear industry. On top of the continuing radioactive releases from Japan’s stricken Fukushima plant, Tuesday’s 25th anniversary of the Chernobyl disaster in Ukraine is providing anti-nuclear campaigners with a rallying call. Over the weekend, for example, nine Nobel peace laureates sent heads of state a letter demanding a phase-out of atomic power, to enable people everywhere to “live in greater peace and security”.

In reality a world free of nuclear power would be less secure. For the foreseeable future, neither fossil fuels nor renewable sources will be able to replace the 14 per cent of global electricity generated by nuclear reactors, without risking severe instability and shortages in energy markets. Put simply, energy security requires a diversity of sources, including nuclear.

When it comes to safety, nuclear power is inevitably judged by different standards. From the explosive start of the atomic age at Hiroshima, people have been afraid of both the destructive power of nuclear fission and the insidious, silent danger from radioactive contamination.

Yet the number killed or harmed by nuclear energy since the start of the atomic age – from mining and refining the fuel through to pollution from power stations – has been orders of magnitude less than the toll from burning coal, oil and gas, even if you ignore the controversial second-order consequences of climate change caused by carbon fuels.

Politicians must respect people’s nuclear fears. There is something dreadful about the long-term radioactive fallout from Chernobyl, which has left farmers 2,000km away in parts of Britain still unable to move their sheep freely. And, sadly, people living within a few kilometres of Fukushima Daiichi may not be able to resume normal life for many years to come.

So governments around the world were right to respond to the Fukushima accident by suspending nuclear expansion plans and reviewing the safety of existing reactors – though Germany went too far in ordering the temporary closure of seven plants, given that the special circumstances of super-earthquake and tsunami are unlikely to apply in northern Europe.

While these reviews must be genuine attempts to assess safety in the light of what happened at Fukushima, rather than token gestures, it is equally important that they should not be spun out unnecessarily to enable politicians to avoid taking difficult but essential decisions about energy policy.
One unfortunate feature of nuclear power today is that most of its generating capacity is old, because the 1979 Three Mile Island accident followed by Chernobyl put a long freeze on new approvals and construction. A substantial majority of the world’s nuclear plants were built more than 20 years ago, to designs that originated in the mid-20th century defence industry.

Today’s “third generation” designs, such as the Areva EPR and Westinghouse AP1000, contain safety features such as passive cooling systems that would almost certainly have prevented the severe overheating that wrecked Fukushima after the tsunami.

But these designs are far from perfect, and more research is needed to develop better reactors for the future – for example ones that use thorium rather than uranium fuel, or operate deep underground. And of course there are other issues that need to be addressed, besides reactor safety, notably the long-term storage or disposal of nuclear waste.

Fukushima will have left the world a terrible legacy if it freezes nuclear development over the next 25 years as effectively as Chernobyl has over the past quarter century.

2011年4月28日木曜日

高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況

 
福島第一原子力発電所から放出されている放射性物質のデータに関して、政府や行政機関(原子力安全・保安院/原子力安全委員会)、あるいは東京電力から発表されるものは、ヨウ素131とセシウム137の数値ばかりであり、国民はこの2つの放射性物質以外の核種についてほとんど知らされることがない。これまで2回ほど、発電所構内の土壌から微量のプルトニウムとストロンチウムが検出されたという発表はあったものの、意図的に海に放出された「低濃度汚染水」や、タービン建屋から漏出した「高濃度汚染水」に関しても、相変わらずヨウ素/セシウム(換算)の放射性物質量しか知らされていない。 - この件については既に4月26日に「どうして日本ではヨウ素とセシウムの値しか発表されないのか?」と題した記事を書いているので、あまりくどくどと追求するつもりはない。しかしながら、より詳細なデータの公開が望まれるところである。

こうした状況にあって、極めて興味深いデータが公開されていることに気がついた。(財)日本国際問題研究所/軍縮・不拡散促進センター(Center for the Promotion of Disarmament and Non-Proliferation)から発表されている、「高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況」という資料だ。ご存知の方は少ないかも知れないが、この資料は、包括的核実験禁止条約(CTBT)の検証制度である国際監視制度(IMS)の監視施設として、高崎に設置されている高崎観測所が、包括的核実験禁止条約機構(CTBTO)本部へ報告する目的で収集している放射性物質の観測データをまとめたものである。

このデータ収集は、あくまでも核実験禁止と拡散防止を目的としたものであり、今回の福島題第一原子力発電所の事故を監視する目的ではない。しかしながら、少なくとも今回の原発事故によって大気中に放出(放散)した放射性物質のより詳しいデータを提供していることは間違いない。例えば3月19日時点のデータはこのようなものとなっている。

 (画像クリックで拡大)

ご覧の通り、テルル129/132、モリブデン99、ニオブ95、テクネチウム99、バリウム140、プロメチウム151、プラセオジム144など比較的半減期の短い、核燃料の核分裂反応で生まれたとしか考えられない様々な核種が捉えられていることが分かる。高崎におけるCTBT放射性核種探知システムは、エアフィルターで集塵した検体をゲルマニウム半導体検出器(HPGe)によって分析するもので、アルファ崩壊するウランやプルトニウムなどの濃度を検出することはできない。

BELTIXの知る限り、(財)日本国際問題研究所/軍縮・不拡散促進センター(CPDND)から、これまでに21の資料が公開されている:(アップデート:2011年7月29日現在

  1. 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(3月19日時点)
  2. 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(3月27日時点)
  3. 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(3月29日時点)
  4. 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(4月2日時点)
  5. 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(4月9日時点)
  6. 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(4月19日時点)
  7. 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(4月23日時点)
  8. 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(5月4日時点)
  9. 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(5月10日時点)
  10. 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(5月15日時点)
  11. 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(5月17日時点)
  12. 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(5月21日時点)
  13. 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(5月23日時点)
  14. 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(5月28日時点) 
  15. 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(5月30日時点)
  16. 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(6月11日時点) 
  17. 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(6月19日時点)  
  18. 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(6月25日時点) 
  19. 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(7月3日時点) 
  20. 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(7月11日時点)
  21. 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(7月26日時点)
    <参考情報>

    =CTBTとは=

    包括的核実験禁止条約(Comprehensive Nuclear Test-Ban-Treaty;CTBT)とは、宇宙空間、大気圏内、水中、地下を含むあらゆる空間における核兵器の実験的爆発及び他の核爆発を禁止 し、かつ条約の遵守を検証するために国際機関(CTBT機関)を設置し、核実験を探知・検証するために必要な検証手段(国際監視制度 (International Monitoring System; IMS)、現地査察(On-Site Inspection;OSI)、協議及び説明(Consultation and Clarification;C&C)、信頼の醸成についての措置(Confidence Building Measures;CBM))を設けた核軍縮・核不拡散条約である。同条約は1996年9月、国連総会において採択された。

    =日本における包括的核実験禁止条約国内運用体制事務局=

    条約に規定される検証制度上の日本の義務を果たすために、外務省は包括的核実験禁止条約(CTBT)国内運用体制を立ち上げ、その業務を、(財)日本国際問題研究所/軍縮・不拡散促進センター軍縮・不拡散促進センターに委託した。CTBT国内運用体制は、国際監視制度(IMS)の監視施設を建設・運営する二つの施設運用者とIMSで探知された異常事象を解析・評価する二つの 国内データセンターおよび事務局から構成されている。外務省は、施設運用者として、国内10ヵ所の監視施設の内、7ヵ所を(財)日本気象協会に、3ヵ所を (独)日本原子力研究開発機構に委託している。

    (画像クリックで拡大)

    2011年4月27日水曜日

    東日本大震災が世界の原子力発電に対する考え方に与えた影響

    WIN-­Gallup International 
    GLOBAL SNAP POLL ON EARTHQUAKE IN JAPAN AND 
    ITS IMPACT ON VIEWS ABOUT NUCLEAR ENERGY

    スイスに本拠を置くWIN-Gallup Internationalは2011年4月19日に「東日本大震災が世界の原子力発電に対する考え方に与えた影響」という国際調査結果を発表した。この調査結果によれば:

    原子力発電に対して「賛成」とする意見は、震災以前の57%から震災後は49%に減少し、「反対」は32%から43%に増加した。支持率(「賛成」ー「反対」の割合)で見ると、25%から6%へ減少した。しかしながら震災後の「賛成」:「反対」の比率は49%:43%であり、国際的な平均で 見る限り、「賛成」が6ポイントの差で「反対」を上回っている。

    震災後、原子力発電に対して「賛成」とする意見が最も大きく落ち込んだのは日本である。「賛成」とする意見は、震災以前の62%から39%に減少し、「反対」は28%から47%へ増加した。支持率(「賛成」ー「反対」の割合)で見ると、34%からマイナス&%へと41ポイントも減少している。

     この調査が行なわれた47カ国のうち、現在稼働中の原子力発電所をもつ18カ国での結果をまとめてみたのが下の表である。

    現在稼働中の原子力発電所をもつ18カ国の震災前と震災後の「賛成」vs.「反対」比較
    (出典:WIN-Gallup International)



    稼働中の
    原子力発電所をもつ国
    震災前
    震災後

    N=
    賛成
    反対
    支持率
    わからない
    賛成
    反対
    支持率
    わからない
    日本
    1000
    62
    28
    34
    10
    39
    47
    - 7
    14
    ベルギー
    500
    43
    46
    - 3
    11
    34
    57
    -23
    9
    ブラジル
    1001
    34
    49
    -14
    17
    32
    54
    -22
    14
    ブルガリア
    996
    68
    16
    52
    16
    62
    23
    39
    16
    カナダ
    1058
    51
    43
    8
    5
    43
    50
    - 7
    7
    中国
    501
    83
    16
    67
    0
    70
    30
    40
    0
    チェコ共和国
    500
    63
    31
    32
    7
    61
    34
    27
    5
    フィンランド
    503
    58
    38
    20
    4
    52
    44
    8
    4
    フランス
    1192
    66
    33
    34
    1
    58
    41
    16
    1
    ドイツ
    501
    34
    64
    -30
    2
    26
    72
    -46
    1
    インド
    1084
    58
    17
    41
    25
    49
    35
    13
    16
    韓国
    1031
    65
    10
    54
    25
    64
    24
    41
    12
    オランダ
    501
     51
    43
    8
    6
    44
    50
    - 7
    6
    パキスタン
     2716
    55
    24
    31
    20
    53
    27
    26
    20
    ルーマニア
    500
     51
    42
    10
    7
    41
    53
    -12
    6
    ロシア
     1500
     63
    32
    31
    4
    52
    27
    25
    21
    スイス
    511
    40
    56
    -16
    4
    34
    62
    -28
    4
    アメリカ合衆国
    500
    53
    37
    16
    10
    47
    44
    3
    9


     この表を見てお分かりの通り、震災後に支持率(「賛成」ー反対」)がマイナスとなっている国は、日本、ベルギー、ブラジル、カナダ、ドイツ、オランダ、ルーマニア、スイスの8カ国であり、最も支持率の低い国はドイツのマイナス46ポイントである。ドイツは震災前においても「賛成」:「反対」=34%:64%(支持率マイナス30ポイント)であったのが、震災後に16ポイントも支持率を失ったことになる。2000年に発効した2020年までに脱原発を目指す法案を2009年に改正し、8年間の延長措置をとったメルケル政権が、あわててまた脱原発への政策転換を行なった背景が、ここにも如実に現れている。

    一方で気になるのは、日本の周辺諸国の反応だ。韓国は「反対」とする意見が10%から24%と14ポイントも増加したが、以前として支持率が41ポイントを占めしている。中国も多少支持率が下がったとはいえ、韓国とぼぼ等しい40ポイントの支持率を見せている。さらに、1986年のチェルノブイリ事故から今年で25年目を迎えるロシアでは、「賛成」「反対」ともに大きな変動はなく、震災後でも25ポイントという支持率を示している。

    本調査の原資料は以下のサイトから入手できる:

    WIN ギャラップ・インターナショナルの世論調査ワークグループ本部で作成した英語版 (PDF:351KB)

     この資料は株式会社日本リサーチセンターが提供しているもので、同社はWIN-Gallup International社と提携しており、今回の調査では日本のデータ収集を行なっている。ちなみに、WIN-Gallup Internationalは「ギャラップ世論調査」で有名な米国のギャラップ社(Gallup Inc./本社:米国ワシントンDC)とは直接の関係はないそうだ。

    2011年4月26日火曜日

    どうして日本ではヨウ素とセシウムの値しか発表されないのか?

     日本の原発事故:米国環境保護庁(EPA)の放射性物質モニタリング
     Japanese Nuclear Emergency: EPA's Radiation Monitoring

    今回の福島第一原子力発電所の事故によって放出された放射性物質の値は、特殊な場合(例えば発電所構内の土壌中のストロンチウム、プルトニウム量)を除き、ヨウ素とセシウムの値にのみ限って発表されてきている。日本のマスコミ各社やフリー・ジャーナリストが、東京電力や原子力安全・保安院、原子力安全委員会に対して、より詳細な資料の公開を強く要求しているにも関わらず、これまでデータを収集しているところだとか、解析に時間がかかっているなどを理由にして公開を避けつづけている。放出されている放射性物質が2種類であるなどということはあり得ないことで、事故発生以来これまで、頑なに公表を避けていることは何らかの「意図」が働いていると考えざるを得ない。

    米国環境保護庁(EPA)では、日本の原発事故の影響による米国内の放射性物質のモニタリング・データを一般米国民に対して公開しており、そのデータには、アメリカ国内ではヨウ素131・セシウム137以外に、バリウム140、コバルト60、セシウム134、セシウム136,ヨウ素132,テルル129,テルル132の検出値が示されている(検体は、大気中、雨中、飲料水、牛乳を対象としたデータが個別に発表されている)。データは3〜4日から1週間ごとに更新されており、常に最新の情報を入手することができる。

    サンプル・データ(Sorted_RadNet_Laboratory_Analysis.xls)

    2011年4月26日現在の米国各州(のモニタリング・サイト)における、大気中、雨中、飲料水中の放射性物質検出量をまとめたエクセル・ファイル。ただし表中の単位はpCi/m3。

    米国ですら、このような情報が広く、しかも常に最新のデータにアップデートされたかたちで公表されているというのに、日本はいったいどうなっているのだろう。

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    この米国環境保護庁(EPA)のデータ分析については、日本の「中鬼と大鬼のふたりごと」というブログで詳細な解析をされている方がおられる。大変貴重な情報なので、勝手ながら以下に引用させていただく。

    米国でプルトニウム・ウランが検出される:過去20年間で最大値!プルトニウム239がハワイで43倍・カリフォルニアで11倍

    米国環境保護局(EPA)のデータベースを 詳細に調べてみたところ、3月下旬から4月初旬にかけて行われたグアム・ハワイや米国西海岸での計測において、異常な濃度のプルトニウム・ウラン・ストロ ンチウムが検出されていたことが分かった。これにより福島第一原発から最も毒性の強いプルトニウム・ウランとストロンチウムが大気中に飛散していることが 裏付けられた(当然海中にも放出されていることになる)。この事実に日本の政府・マスコミ・東電・御用学者はだんまりを決め込んでいるが(米国政府もアク セスの多い一般向けのページにはごく一部の放射性物質の情報しか掲載していない)、すでに海外の専門家の間やネットでは隠しきれない事実になりつつある。(以下省略)