2011年5月9日月曜日

CTBT高崎観測所データがもたらす困惑と疑惑 - 続報


1.ヨウ素135/プロメチウム151は検出器の誤認?

(財)日本国際問題研究所軍縮・不拡散促進センターは、2011年5月9日付で「高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況 (CTBT国際データ・センター(IDC)によるデータの修正のお知らせ)」という文書を公開した。以下にその文書をそのまま転載させていただく:
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当センターのホームページにCTBT高崎観測所による3月19日、27日及び29日時点のものとして公表されました放射性核種探知データの内、3月15日から16日(日本時間)にかけて採取された大気サンプルの測定結果を示した観測データに関して、「ヨウ素(I)135が異常な高濃度の測定値(370,000mBq/m3)を示しているが、この測定値は果たして正確であるのか。」等の複数の照会が5月第一週に同センターに寄せられました。

これらの照会を受けて、同センターは早速、日本政府経由でウィーンのCTBT準備委員会技術事務局の国際データ・センター(IDC)に事実関係を照会しましたが、この度IDCより、3月15日から16日の測定結果のうち、I-135及びプロメチウム(Pm)151は、同日に発生した高崎観測所の一定時間の電源喪失等による検知システムの誤認であり、これらの放射性核種は実際には検知されていないとの回答がありました。

従いまして、当センターから公表致しました3月19日、27日及び29日時点のデータをご参照いただく場合には、上記のとおり、3月15日から16日の測定結果のうち、I-135及びPm-151については誤認の扱いとしてご利用いただきますようお願い申し上げます。

なお、CTBT準備委員会技術事務局に対しては、日本政府より、過去に報告されたデータも含め、今後、誤認が判明した場合には、直ちに報告するよう依頼しており、このような報告があった場合には、速やかに当センターのホームページで周知させて頂きます。
(以上)
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さて、この発表をどのように受けとればよいのだろうか。そうか、やはり検出機器に不具合があったのか、と簡単には納得できない。 たとえばBELTIXの疑問を示せば次のような点が挙げられる。

(1)停電があったことを示す記録に整合性がない

検知システムによる誤認の原因として「一定時間の電源喪失等」が挙げられているのだが、少なくともこの発表が行なわれるまで、当該データが含まれている検出時期は「3/15/15:55 - 3/16/15:55」と明記されたままであり、この24時間以内に「電源が失われた」という記述はされていない。確かに、3月16日に一部電源喪失があったことを窺わせる記載が、放射性希ガス(キセノン)放射能濃度の検知記録に残されている。「3/16 18:04 - 3/16 22:04 停電のため測定不能」という記述がそれだ。しかしながら、この電源喪失時間は、ヨウ素135とプロメチウム151が誤認されたという時間帯(「3/15/15:55 - 3/16/15:55」)とは約9分の誤差があり、もし停電を原因とするならば、この2つの記録に整合性がなければならないはずだ。

(2)仮に停電の影響による検出器の誤認であれば他の核種のデータの信頼性が疑われないのはなぜか

検出器そのものが停電によって誤動作したというのであれば、他の核種の検出にも誤認が生ずるはずであり、なぜその点が検証されていないのか疑問が残る。

(3) 国際データセンター(IDC)に確認しなければ確認できないというは不可解

高崎観測所からCTBTの国際データセンター(IDC)へのデータ転送は次のような仕組みとなっているという(下図は「CTBT国際検証システムへの協力と極微量核物質分析技術開発について」から転載)。



確かに(高崎観測所などから得られた)データは直接IDCのデータセンターのデータベースへ衛星通信で転送され、ガンマ線スペクトルとその解析データが(日本の)国内データセンターのデータベースへ送り返されてくる。そのスペクトルデータを(国内で)解析した上で核種分析と放出源の特定が行われるというデータフローとなっている。こうしたデータ解析プロセスにおいて、IDCのデータセンターへ照会しなければ検出器の誤動作を確認できないというのが理解できない。スペクトルに出現している核種ごとのピーク値を「専門家による解析」を行なうというフィードバックが働いているはずだからである。より単純に言えば、もともとのデータ検出が行われているのは高崎観測所なのであるから、「一定時間に発生した電源喪失等による検知システムの誤認」は国内で容易に判定できるのではなかろうか。それが、ほぼ2ヶ月の間見過ごされ、放置されていたというのはどう考えても腑に落ちない。

2.3月15日(3/14/15:55 - 3/15/15:55)のデータの空白には一切の説明がなされていない

さて、もうひとつの大きな疑問である3月15日(3/14/15:55 - 3/15/15:55の24時間)のデータ欠落の原因は何なのか。この24時間については(福島第一原子力発電所で起こったと同様な)「全電源喪失」(ステーション・ブラックアウト)が起きたとでもいうのだろうか。残念ながら、この件についての説明は一切行なわれていない。データ公表からほぼ2ヶ月を経過した時点で、ヨウ素135とプロメチウム151の検出が誤認だったという発表を行なうのであれば、この点についても明確にされなければならないのではないか。

この空白の24時間についても、追って何らかの原因が発表されるだろう(と期待している)が、どのような説明がなされるか楽しみなことではある。どうやら、日本の重要なシステムは緊急時になると揃って誤動作するようにプログラムされているらしい。「緊急時対策支援システム(ERSS)」と「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム (SPEEDI)」が、福島第1原発事故で本来の機能をまったく果たせなかったように。

3.備考(2011年5月9日に加筆)

総合研究大学院大学助教授素粒子原子核専攻/高エネルギー加速器研究機構助教授の野尻美保子さんが、直接高崎にご連絡されたらしく、ご自身のTwitter「野尻美保子(災害モード)」@Mihoko_Nojiriで、この間の経緯について解説しておられる。勝手ながらツイートされた内容を一部ご紹介させていただくと:

[CTBT高崎の件] CTBT 高崎は本来の機能は遠隔での核実験を探知するもので、大量の空気をエアフィルターにかけて、測定装置(ガンマ線検出器)にかけ自動的に取ったスペクトルデータを本部(ウイーン)で解析しているらしい。

[CTBT] ところが、15日は大量の普段ではない放射線が押し寄せたので、結果的にエアフィルターにまともじゃない量の放射性核種がついて、これを観測装置にほりこんだら、ガンマ線カウンターが鳴りっぱなし状態になった。

[CTBT] もしオンサイトに人がついていて自由にいじれるシステムだったら、たとえば1時間ごとにフィルター変えるとか、空気を控えめにフィルターかけるとか、フィ ルターの一部をつかうとかすれば、測定ができたはずだが、設置目的から現場の人はいじれないようになっているのではないかと思う。
[CTBT] で、日本側としてはデータはCTBT のもので、設置目的から詳細開示はむりなんですごめんなさいね、という話だった。そもそもデータをあきらかにするのが異例らしいんだけど、今日本のせいで 核実験が探査できないくらい日本がよごれちゃってるので、いいでしょうということらしい。

[CTBT] で今回は残念だったけど、今くらいおちついてくると、ちょっとしかない核種でも発見可能なので、炉の日々の状態をみるのにはいいかもしれません。というわけであんまり怒らずに、次のデータをまちましょう。(小放出とかあっても見つけてくれる) 以上です。

停電のこともいっていました。これと、今した話(も向こうはしてた)との関係はよくわかりません。

停電と核種の関係がわからんですよね。いずれにしても、あんなとんでもない量Bq ガンマ線カウンターがなってたら、エネルギー分解能なんて gdgd でしょう。Ge のγ線カウンターだったら時間分解能悪いし

しかし、思ったんだけど、担当の人は怖かったろうな、と思うんですよ。普段なんにもないところに、大量の放射性核種が押し寄せてくるのが見えるわけで。僕 らは total の線量だけみてるから、上がった上がった程度だけど、あそこの人は、ああ、あれもこれも入ってるって。

大事なことだからもう一変いうけど、今空間放射線量は地上からくる部分が大半だから、それの上がり下がりをみても、あまり原子炉の状況はわからない。炉の状況(新たな放出)に興味があるなら、エアフィルターや降下物のデータを見た方がいいと思う。

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