福島第一原子力発電所から放出されている放射性物質のデータに関して、政府や行政機関(原子力安全・保安院/原子力安全委員会)、あるいは東京電力から発表されるものは、ヨウ素131とセシウム137の数値ばかりであり、国民はこの2つの放射性物質以外の核種についてほとんど知らされることがない。これまで2回ほど、発電所構内の土壌から微量のプルトニウムとストロンチウムが検出されたという発表はあったものの、意図的に海に放出された「低濃度汚染水」や、タービン建屋から漏出した「高濃度汚染水」に関しても、相変わらずヨウ素/セシウム(換算)の放射性物質量しか知らされていない。 - この件については既に4月26日に「どうして日本ではヨウ素とセシウムの値しか発表されないのか?」と題した記事を書いているので、あまりくどくどと追求するつもりはない。しかしながら、より詳細なデータの公開が望まれるところである。
こうした状況にあって、極めて興味深いデータが公開されていることに気がついた。(財)日本国際問題研究所/軍縮・不拡散促進センター(Center for the Promotion of Disarmament and Non-Proliferation)から発表されている、「高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況」という資料だ。ご存知の方は少ないかも知れないが、この資料は、包括的核実験禁止条約(CTBT)の検証制度である国際監視制度(IMS)の監視施設として、高崎に設置されている高崎観測所が、包括的核実験禁止条約機構(CTBTO)本部へ報告する目的で収集している放射性物質の観測データをまとめたものである。
このデータ収集は、あくまでも核実験禁止と拡散防止を目的としたものであり、今回の福島題第一原子力発電所の事故を監視する目的ではない。しかしながら、少なくとも今回の原発事故によって大気中に放出(放散)した放射性物質のより詳しいデータを提供していることは間違いない。例えば3月19日時点のデータはこのようなものとなっている。
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ご覧の通り、テルル129/132、モリブデン99、ニオブ95、テクネチウム99、バリウム140、プロメチウム151、プラセオジム144など比較的半減期の短い、核燃料の核分裂反応で生まれたとしか考えられない様々な核種が捉えられていることが分かる。高崎におけるCTBT放射性核種探知システムは、エアフィルターで集塵した検体をゲルマニウム半導体検出器(HPGe)によって分析するもので、アルファ崩壊するウランやプルトニウムなどの濃度を検出することはできない。
BELTIXの知る限り、(財)日本国際問題研究所/軍縮・不拡散促進センター(CPDND)から、これまでに21の資料が公開されている:(アップデート:2011年7月29日現在)
- 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(3月19日時点)
- 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(3月27日時点)
- 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(3月29日時点)
- 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(4月2日時点)
- 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(4月9日時点)
- 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(4月19日時点)
- 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(4月23日時点)
- 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(5月4日時点)
- 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(5月10日時点)
- 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(5月15日時点)
- 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(5月17日時点)
- 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(5月21日時点)
- 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(5月23日時点)
- 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(5月28日時点)
- 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(5月30日時点)
- 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(6月11日時点)
- 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(6月19日時点)
- 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(6月25日時点)
- 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(7月3日時点)
- 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(7月11日時点)
- 高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(7月26日時点)
=CTBTとは=
包括的核実験禁止条約(Comprehensive Nuclear Test-Ban-Treaty;CTBT)とは、宇宙空間、大気圏内、水中、地下を含むあらゆる空間における核兵器の実験的爆発及び他の核爆発を禁止 し、かつ条約の遵守を検証するために国際機関(CTBT機関)を設置し、核実験を探知・検証するために必要な検証手段(国際監視制度 (International Monitoring System; IMS)、現地査察(On-Site Inspection;OSI)、協議及び説明(Consultation and Clarification;C&C)、信頼の醸成についての措置(Confidence Building Measures;CBM))を設けた核軍縮・核不拡散条約である。同条約は1996年9月、国連総会において採択された。
包括的核実験禁止条約(Comprehensive Nuclear Test-Ban-Treaty;CTBT)とは、宇宙空間、大気圏内、水中、地下を含むあらゆる空間における核兵器の実験的爆発及び他の核爆発を禁止 し、かつ条約の遵守を検証するために国際機関(CTBT機関)を設置し、核実験を探知・検証するために必要な検証手段(国際監視制度 (International Monitoring System; IMS)、現地査察(On-Site Inspection;OSI)、協議及び説明(Consultation and Clarification;C&C)、信頼の醸成についての措置(Confidence Building Measures;CBM))を設けた核軍縮・核不拡散条約である。同条約は1996年9月、国連総会において採択された。
=日本における包括的核実験禁止条約国内運用体制事務局=
条約に規定される検証制度上の日本の義務を果たすために、外務省は包括的核実験禁止条約(CTBT)国内運用体制を立ち上げ、その業務を、(財)日本国際問題研究所/軍縮・不拡散促進センター軍縮・不拡散促進センターに委託した。CTBT国内運用体制は、国際監視制度(IMS)の監視施設を建設・運営する二つの施設運用者とIMSで探知された異常事象を解析・評価する二つの 国内データセンターおよび事務局から構成されている。外務省は、施設運用者として、国内10ヵ所の監視施設の内、7ヵ所を(財)日本気象協会に、3ヵ所を (独)日本原子力研究開発機構に委託している。
2 件のコメント:
ガンマ線解析と書いてあるんで、ストロンチウムやプルトニウムは初めから解析対象では無いのではないでしょうか。
shanghai_iiさんご指摘ありがとうございました。該当部分を訂正させていただきました。
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