1.放射性物質の拡散を時系列で把握するベンチマークとしての有効性
福島第一原子力発電所の事故現場から放出されている放射性物質の拡散については、あちこちから膨大な実測データが報告されてきている。これまで政府と東京電力が恣意的に隠してきた(と疑われる)様々な重大事象が、どれほど環境汚染と国民の健康を蝕む外部・内部被ばくの危険をもたらしているか、その関連が国民自身の手で明らかにされようとしている。インターネットを通じた不定形のネットワークにより、各地からもたらされるデータが相互に参照・検証、補完されて、「集合知」(Collective Intelligence)として形成されていく様子はまさしく目を見張るものがある。とはいえ、あまりに多様で測定条件がまちまちなデータ群に遭遇すると、一方で、「知」の拡散が生ずるという弊害も生まれてくるわけで、「集合知」を「実践知」(Practical Intelligence)へと転換するエネルギーとベクトルを損失することにもつながりかねない。いずれにせよ、断片的で信頼性に欠ける公的データと、ネット上に溢れている膨大な情報の中で、どのデータや数値をベンチマークとして信頼するかは非常に難しい問題である。氾濫する情報の中から仮にベンチマーク足り得るデータを選ぶとすれば、CTBT高崎観測所の放射性核種探知状況はその有力な候補のひとつだろう。国際的な観測網の中でシステム化され、(日本国内の)ドメスティックな事情(政治的、社会的な思惑)に影響を受けることがない(と願うのだが)。CTBT高崎観測所から提供される、定点観測・高感度・24時間ダストモニタリング・356日ノンストップ、という貴重なデータは、文科省からようやく公表されるようになったWSPEEDI(広域汚染状況予測値)を、実査データとして検証する意味でも重要だ。本ブログでも再三指摘している通り、重要なデータが一部欠落(3月14〜15日の1日分のデータが欠落していること。また、かつて測定値が公表されたヨウ素135およびプロメチウム151が測定器の誤読として削除)していることが惜しまれるものの、今後とも継続的なデータ公開を望みたい。
2.CTBT高崎観測所データから見る福島第一の重大事象との関連性
CTBT高崎観測所の放射性核種探知状況は、(財)日本国際問題研究所/軍縮・不拡散促進センターから第11報として5月17日時点のデータが公開されている。(ただし最新版は、7月26日時点の第21報。2011年7月29日現在)
下記のグラフはこの最新のデータをBEITLXがグラフ化(横軸は日付/縦軸はμBq/㎥の対数表示)し、観測データが著しいピークを示したところを事象1〜事象5としてプロットしたものである。
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放射性核種それぞれの経時変化については、専門分野の方々のご意見を仰ぐとして、BELTIXはこの5つの検出ピークについて、福島第一原子力発電所の事故に関わる重大事象との関連性を考えてみたい。
【事象1】3月15〜16日
これは言うまでもなく、3月11日の震災・津波による全電源喪失に伴う第1〜第3号機の炉心溶融に伴う圧力容器と格納容器の損傷、ドライベント、1、3、4号機の水素爆発など一連の事象による放射性物質の爆発的な拡散を示すピークである。これに先立って、既に東京電力から発表されている通り、第1号機では事故発生からわずか16時間後の3月12日午前6時には、燃料棒がほぼ100%溶融したメルトダウンが起こっている。さらに3号機については、その爆発時の様子から単なる水素爆発ではなく、核爆発(もしくは「核暴走」)が起きたのではないかという疑いも捨てきれてない。そのひとつの根拠として、(検出器の誤読としてデータから削除された)ヨウ素135の放出が記録されていた。
【事象2】3月20〜22日
このピークが検出された期間、特に第3号機の周辺で様々な事象が起こっていたことが報告されている。炉内温度が三百数十度まで上昇しており、原子炉建屋から灰色の煙が上がるのが確認され、消防ポンプ車による大量の放水が行なわれている。最も重要な点は、3月21日に圧力容器の炉圧が急激に減少し、その後短時間で圧力が回復するという変化が東京電力から公表されていることだ。この時点では全ての計測機が満足に作動しておらず、この変化も計器不良の影響であると(あえて)見過ごされているようだが、やはりこれは、3号機のメルトダウンにより圧力容器に大きな損傷が生じたことを示しているように推測される。圧力容器の一部に穴が開き、炉内の水が一気に格納容器に漏出することで圧力が下がり、その後の注水の増量によって炉圧が回復したと見るべきだろう。このことによって格納容器にも大きな損傷が生じ、放射性物質が大量に放出された。あるいは、公表はされていないが、秘密裏にドライベントが行われたという疑いも否定できない。既に2号機3号機のいずれもメルトダウンしている可能性が極めて高く、特に3号機は現在でも圧力容器の不規則な温度上昇が報告されている。(2号機について特定することはできないが)恐らく、3号機のメルトダウン(全炉心溶融)は3月20〜22日に起こったのではないかと想像される。
注:下図は@ishtaristさんのtwitpic「官邸資料 (http://www.kantei.go.jp/saigai/201103260800genpatsu.pdf) p57-58より、3号機原子炉の圧力変化をExcelでプロットしてみました。」を借用させていただきました。
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【事象3】3月29〜31日
このピークは何なのだろうか。この期間で特筆すべきことは、外部電源が復活したことによって、各号機への注水が消防用ポンプから仮設電動ポンプへと順次切り替えが行われた時期にあたっているのみで、各号機とも安定した注水が行われて温度や圧力に大きな変化は現れていない。ここで最も気になるのは、特にテクネチウム99mの濃度が突出していることだろう。6.02時間という極めて短い半減期をもつテクネチウム99mが大量に検出されているということは、少なくとも原子炉(圧力容器)からの直接の放射性物質漏えいに由来すると考えられるわけで、この点について明確な知見をお持ちの方からご意見をいただきたいところだ。
【事象4】4月17〜19日
【事象4】4月17〜19日
無人ロボットが原子炉建屋に入って高線量を検出した前後にもピークが観測されている。ドアの開閉から建屋内の汚染が空気中に拡散したという影響も少しあると推定されるが、これほどのピークとして観測されることから見て、もっと大きな事象があったに違いない。
【事象5】4月20〜22日
【事象5】4月20〜22日
以上、CTBT高崎観測所のデータのみを参考として、福島第一原子力発電所の重大事象との相関を推測してみた。CTBT高崎観測所のデータを公開している(財)日本国際問題研究所/軍縮・不拡散促進センターでは、これらのピークを風向きや天候などに影響されたものとしている。したがって、先に挙げた事象1〜事象5は、その他の関連する情報に基づいて、あくまでもBELTIXが独自の判断で 推定・推測したものであることをお断りしておく。