2011年5月14日土曜日

【放射線量基準には何の法律的な根拠もない】:これがニッポンの現実だ。


1.公衆の放射線被ばく基準値を成文化した法律は存在しない。

驚いたことに、日本のいかなる法律にも(放射線業務従事者を除き)一般人の被ばく線量限度を定めた条文がないことが分かった。

唯一、根拠となるのが、「原子力基本法」に基づく関連法の中で、「放射線障害の防止に関する法律施行規則」における「放射線を放出する同位元素の数量等を定める件」の中に、排水、廃棄の基準を定める規則第19条があり、線量限度として「1年間に1ミリシーベルト」とある。これを敷延して「公衆が安全な線量」として拡大解釈しているに過ぎない。「医療法」、「環境保護法」など、国民の健康を守るべき法律は、放射性物質に関する全てを「原子力基本法」に丸投げしており、それを受けた「原子力基本法」は「原子力を動かすための法律」であり、国民の健康などに何の関心も払っていないのだ。

政府がさかんに「暫定値」と繰り返し、その根拠をつねにICRP勧告に求めている理由は、これまでのICRP勧告を「国内制度へと受け入れる」としながらも、いかなる法律的な条文化も行なってこなかったからにほかならない。さらに言えば、「20ミリシーベルト」への引き上げという蛮行も、(現行ではまだ正式な見解すらまとめきれていない)「ICRP 2007年勧告」の非常時基準を拡大解釈して借用せざるを得ない。なぜなら、暫定的でない基準など初めから持ち合わせていないのだから。

またこれは既にご承知の通り、「食品衛生法」でも食品に含まれる放射性物質の含有基準や摂取基準を明記したものは存在していない。厚生労働省が、これまでいったいどのような根拠で食品を管理してきたのか知らないが、とりあえず今は、内閣府の食品安全委員会が「適当に」(適切ではなく、あくまでも適当に)暫定基準を発表しているに過ぎないのだ。

残念ながら、諸君。日本という国は、被爆国でありながら、これまで国民を放射性物質の被害から守ろうとしたことは一度もなかったのだよ。

2.環境汚染に関する放射性物質の基準もない。

直接人体が被ばくする健康被害に対する(法律的な)基準が存在しないのだから、環境汚染に関しては推して知るべし。最も頼りになりそうな「環境保護法」を参照すると、その第十三条(放射性物質による大気汚染等の防止)の記述は「放射性物質による大気の汚染、水質の汚濁及び土壌の汚染の防止措置については、原子力基本法その他の関係放棄で定めるところにある」と「原子力基本法」へ丸投げ。

それでは、と、「土壌汚染対策法」を眺めてみても結果は同じ。その第二条に「この法律において『特定有害物質』とは、鉛、砒素、トリクロロエチレンその他の物質(放射性物質を除く。)であって、それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるものとして政令で定めるものをいう。」という一文があるのみで、他に放射性物質に言及した条項は見つからない。

福島県産の農作物や畜産物を汚染し、また、遠く静岡県の茶葉までセシウムの汚染が広がっていることから、少なくとも、農業用地の土壌汚染くらいは何らかの基準が設けられいるだろうと思ったが、案の定、あてがはずれた。「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律」の第二条の3項に曰く、「この法律において『特定有害物質』とは、カドミウム等その物質が農用地の土壌に含まれることに起因して人の健康をそこなうおそれがある農畜産物が生産され、又は農作物等の生育が阻害されるおそれがある物質(放射性物質を除く。)であつて、政令で定めるものをいう。」のだそうである。


3.食品の汚染基準は「暫定」にすら当てはまらない

残念ながら、福島県内ばかりでなく、各地の農畜産物に放射能汚染が拡大している。つい先日は、静岡県の茶葉から高濃度のセシウム汚染が検出されたことが報道されている。食品は我々の健康に直接の被害を及ぼすものであるだけに、その安全基準は厳しく守られるべきなのは言うまでもなく、放射能も例外ではない。精緻に検討が加えられ、法制化された基準値によって、その生産や製造、出荷・販売、摂取が管理・監督されなければならないはずだ。しかしながらここでもその原則は破られていた。食品の安全性を担保するはずの「食品衛生法」には一切放射性物質の汚染に関する条項が存在しない。現在、政府が「暫定値」として発表している汚染基準は、2010年8月23日に原子力安全委員会が決定した「原子力施設等の防災対策について(の改訂)」において定めた、第5章3項「防護対策のための指標」の(3)飲食物の摂取制限に関する指標に拠るものである。ちなみに、この「「原子力施設等の防災対策について」とは、その名が示す通り、今回の福島原発事故などによる災害に対応した原子力委員会の提言(もしくは意見具申)としての性格であり、それがそのまま食品の安全基準として適用され得る法的な裏付けはない。つまり、政府が公表している「暫定値」は、あくまでも「原子力災害特別措置法」が発令されたことによる緊急事態の概念に基づいており、その緊急事態に対して一定の超法規的な権限をもつ内閣総理大臣の判断で決定されているものと解釈されねばならない。話を単純化するために一例を挙げると、たとえば水道水や牛乳の安全基準が300Bq/kgとされており、これは先に述べた原子力安全委員会の提言(意見具申)に基づいているわけだが、仮に政府(総理大臣が)事態の現況や緊急性を勘案して3,000Bq/kgまで認めることにしようと決めれば、なんの苦もなく基準値を変えることも可能なのである。なぜなら、「原子力特別措置法」という伝家の宝刀があり、それに対抗すべき法律的な基準が存在しないからである。何とも「国」のとって都合の良い、融通無碍な「暫定値」であることだろうか。

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BELTIXは法律の専門家ではないので、以上のことは、あくまでも個人的に調べた生半可な知識の範囲で発言している。また、これらは「放射線業務従事者」に対する基準は全て除外して、一般公衆(パブリック)に適用すべき法律に関して述べている。法律家の中で詳しい方がおられれば、ぜひ、私の間違いをご指摘いただきたい。むしろ、大きな誤解をしているとすれば望外の幸せである。

(2011年5月14日更新)

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