2011年4月30日土曜日

福島県の学校の屋外活動制限:「20ミリシーベルト/年間」を考える(1)


1.確かに徹底的な議論と検証が行われているとは言い難い。

文部科学省などが、福島県の小学校などの校庭での活動を制限する目安を、1年間の放射線量の累積で20ミリシーベルトとしたことなどを批判して、小佐古敏荘氏が内閣官房参与を辞任した。このことが大きな反響を呼んでおり、いったい誰が、どのような根拠でこのような基準を設けたのか、そして、各関連省庁(および外部諮問機関)がどのような討議を行なっていたのかが追求されている。

 このことについて言えば、4月19日付で公表されている文部科学省:福島県内の学校等の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方についてを参照するのがよいだろう。

基本的に、今回の決定にあたっては、まず(1)政府の原子力災害対策本部が基本案を作成し、それを(2)原子力安全委員会が検討した上で、「福島県内の学校等の校舎、校庭等の利用判断における暫定的考え方」に対する助言について以下のように回答している:

平成23年4月19日付で、要請のありました標記の件については、差支えありません。なお、以下の事項にご留意ください。

  • 学校等における継続的なモニタリング等の結果について、二週間に一回以上の頻度を目安として、原子力安全委員会に報告すること
  • 学校等にそれぞれ1台程度ポケット線量計を配布し、生徒の行動を代表するような教職員に着用させ、被ばく状況を確認すること

次いで、(3)文部科学省から福島県教育委員会、福島県知事などの関係者宛に「福島県内の学校の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方について(通知)」が送付されている。


これらの起案、検討、諮問・評価、決定、通知までのプロセスが、全て4月19日付で行われているということに驚かされる。小佐古敏荘氏ならずとも、充分な討議や検証が行われているとはとても思えず、政府と関係諸官庁は国民に対して誠実に説明する義務があることは間違いない。

2.20ミリシーベルトの論拠が希薄であり子供たちの放射線に対する感受性が考慮されていない。

原子力災害対策本部に起案による学校の屋外活動の制限基準である「20ミリシーベルト/年」は、次のような論拠に基づくものと説明されている:

国際放射線防護委員会(ICRP)のPublication109(緊急時被ばくの状況における公衆の防護のための助言)によれば、事故継続等の緊急時の状況における基準である20~100mSv/年を適用する地域と、事故収束後の基準である1~20mSv/年を適用する地域の併存を認めている。ま た、ICRPは、2007年勧告を踏まえ、本年3月21日に改めて「今回のような非常事態が収束した後の一般公衆における参考レベル(※1)とし て、1~20mSv/年の範囲で考えることも可能」とする内容の声明を出している。このようなことから、幼児、児童及び生徒が学校に通える地域においては、非常事態収束後の参考レベルの1-20mSv/ 年を学校の校舎・校庭等の利用判断における暫定的な目安とし、今後できる限り、児童生徒等の受ける線量を減らしていくことが適切であると考えられる。

※1 「参考レベル」: これを上回る線量を受けることは不適切と判断されるが、合理的に達成できる範囲で,線量の低減を図ることとされているレベル。

この「20ミリシーベルト/年」を「是」として上で、1時間当たりの(被ばく)線量を算出すると「約2.283マイクロシーベルト」になるわけだが、ここで、災害対策本部は、屋外と屋内の被ばくを屋外を100とした時に屋内ではその40%にあたると想定し、かつ、幼児、児童及び生徒の1日の生活時間を屋外8時間:屋内16時間という案分を行い、その結果として「3.8マイクロシーベルト/時」という数値を導き出している。

   年間被曝量20ミリシーベルト/年=2.283マイクロシーベルト/
   屋外3.805マイクロシーベルト/時X8時間
   屋内1.524マイクロシーベルト/時X16時間
   ただし、屋内被ばくは屋外活動時の40%として想定する。

学校での生活は校舎・園舎内で過ごす割合が相当を占めるため,学校の校庭・園庭において3.8マイクロシーベルト/時以上を示した場合においても,校舎・園舎内での 活動を中心とする生活を確保することなどにより,児童生徒等の受ける線量が20ミリシーベルト/年を超えることはないと考えられる。...... というのが、とりあえずの結論となっている。

多くの方が猛烈に反駁している通り、ICRPの「Publication 109」および「2007年勧告」を合体させて拡大解釈し、その上で、本来成人に対して用いられるべき基準を、放射線に対する感受性が成人の数倍(年齢によって異なる)である幼児、児童及び生徒に対してそのまま適用するという過ちをおかしていることが問題である。



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